ドンタコス通信
ドンタコス通信


さあやってきましたドンタコス通信、インチキ闘病編・第2部です。
というわけで、面倒な前振りは抜きにして、続きのはじまりはじまり〜。


ええーい、落ち着いてらんないけど、落ち着いたと仮定してだ、選択肢は3つ。
寝た振りを続ける、逃げる、戦うだ。
ところで逃げたり、戦ったりしてどうにかなる相手なのか?
うわうわっ、4番目のベッドまでやってきた。次はN村じゃないか。認めたく
ないけど、とても逃げるとか戦うとかを選択できる雰囲気じゃない。絶対にス
トーカーなんて生易しい存在じゃあねぇぞコレ。頭ん中で、赤い警告灯がぐる
んぐるん回ってサイレンが鳴り響いてきた。
しかも緊張と恐怖のせいか、空気の重くなって呼吸がしにくいぞ。なんなんだ
よコイツは、どう考えても人間じゃないぞ。百歩譲って人間だとしても、元人
間がいいところだ。
そいつは、顔を上げて身体をするっと反転させると、N村の方へ向いて、一歩
二歩と近づいてきた。
やべぇ、ジッと見てやがる。お願いだから早くあっちへ行ってくれー。
マジで心臓がバクバクいってやがるし、全身の血管が脈打っていて、身体をわ
ずかに上下動させていやがる。大き過ぎる心臓の音が聞こたり、身体の動きを
見つけられて、怪しまれてるんじゃないだろうか。
ジッと待つだけの事なんだけど、すげー辛い・・・
いったい、何秒経ったんだ、それより後どのくらい我慢すりゃいいんだ。
いかん、緊張してて呼吸するのを忘れてた。こりゃ息がもたんぞ。息を止めて
いるのをバレてないだろうな。息をしたいんだけど、今のN村にゃ自然な呼吸
なんてできないぞ、肺の中の空気を出そうもんなら、一気にフゥーと吐き出し
ちまう。
本気で酸素が足りん、息を止めて酸欠で死んだなんて、アホな死に方は勘弁し
てほしいんだけど、こいつに見つかるのもイヤだ。
N村が何度目か、もうダメと思ったときに、侵入者はN村の方から離れて最後
の6番目のベッドに向かいました。
ひゅー、助かったー。間違いなく寿命が20秒ぐらいは縮んだぞ。
身体の緊張を少しずつほぐして、呼吸を再開したN村は落ち着きを取り戻して
侵入者の観察を再開しました。

えっ、ちょっと待ってよ、N村が平気だったって事は、最後の人が狙いなのか。
N村の見ている前で、そいつはベッドに横たわる人影の上に腕を伸ばして、手
の平で何かを感じるかのように、腕を左右に振っている。あきらかに、今まで
とは違う行動だ。
げげっ、これってヤバイんじゃないの。さっき読んでいた体験談のうち、死神
らしき男が病室に入ってきて、枕元に立った翌日にその人の病状が急変して死
んだって話があったよな。
俺がここで止めに入れば、この人、ええーっと、誰だっけ?高野さんだ、そう
高野さんは死なずにすむかもしれん。こいつが原因で死ぬという証拠はまった
く無いのだが、かといって死なれると非常に後味が悪い。
こういう場合の選択条件は非常に簡単、N村が明日死んだとして、その間際に
「アレをやっとけば良かった」と悔いにならない方法を選ぶべし。

やるべき事は簡単に選べるんだけど、それを行動に移すのが難しすぎる。かと
いって、いつまでも悩んじゃおれん。
こういう場合は、N村のうちにある大事なものの優先順位を変更して、明日の
自分よりも、今の自分に最大限の権限を与えてやる。
そいつはN村に背を向けて集中している様子なので、隙をつくことは十分に可
能なはずだ。
N村は目をギュと閉じて、覚悟を決めると、掛け布団を跳ね除けて一気に上半
身を起こし、両足を身体に引き寄せた。太もも、ヒザ、足首にグッと力を溜め
て、解放すると侵入者のいた方に向かって飛び跳ねた。
N村は飛び掛って、押し倒してやろうと思っていたのだが、飛んだ先にそいつ
はおらず、そいつは満腹になったかのように胃の辺りをさすりながら、ドアに
溶け込むようにして出て行くところだった。
そしてN村はと言えば、となりのベッドに突っ込まないように、身体を捻って
ベッドにはぶつからなかったものの、着地に失敗して、右の踵を普段は接地し
ない角度で床にぶつけて、ついでに右ひじも床に打ちつけた。
うめき声を上げて七転八倒したくなったが、声は口の中で強引にねじ伏せて、
床に倒れたまま、痛みが去っていくのを我慢して耐える。
着地に失敗したときに、ゴンと結構大きな音がしたのだが、幸いにも誰も起き
てこなかったので、痛みが落ち着くと、そそくさと掛け布団を戻して、ベッド
に潜り込んだ。




つづく・・・
というわけで、またもや続きます。





ドンタコス通信060530号
ドンタコス通信060621号
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